高尾山の自然観察ガイド
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高尾山の地学
小仏層
皆さんが今登ろうとしているこの高尾山をはじめとする周辺の山々は、1億年ほど昔は海底であったと考えられています。
そしてこの海底に、およそ7000年前~1億年前の間を通して、少しずつ地層が堆積していったのです。
この海底の層は、その後の何度となく発生した大規模な地殻変動によって海底の地盤が盛り上がり、海上に姿を現し、そして高尾山をはじめとする周辺の山々に形成されていきました。
さて、高尾山と周辺の山々を形成しているこの一帯の地層を、その地層が特に露出している代表的な場所である「小仏峠」から名をとり「小仏層」と呼んでいます。
これからも「小仏層」ということで話を続けていきますが、この「小仏層」という名は、実は高尾山のある関東を中心に使われています。
それでは、一般的には、というと、同様の地層の現象が、見られる四国一帯の名をとり「四万十層群」と呼ばれることが多いようです。
四万十層群は、西南日本の外帯に連続的に分布する地層で、陸と海溝の間で形成されたものです。
海溝の陸側では、陸から河川などよって運ばれて堆積物が大陸棚に堆積していきます。
その堆積物が、海洋プレートに押されて列島の下に押し込まれ、海溝に沈みこめなっかた海の岩石の破片も、陸側に付け加わります。
さて、この小仏層も、陸と海溝の間で形成されたもの、言いかえれば「マントルと地殻の循環運動」により発生するプレートの動きで形成されたものです。
同様に、四国に分布する「四万十層」についても長年にわたる研究により、およそ1億年前に海底に堆積した「海成層」と考えられています。
ところで、この時代はというと「中生代白亜紀」で、まさに恐竜が闊歩していた時代です。
もっとも今のところ高尾山からそれほど珍しい恐竜類の化石は、見つかったという話は、残念ながら聞きません。
そのうち高尾山で新型恐竜発見なんてことにならないかと本当に楽しみです。
高尾山は、大変植物の種類が豊富な山であることは、皆さんご存知の通りですが、このため数多くの植物で山肌がうっそうと覆われています。
従って、高尾山で山の地肌を直接目のあたりにする場所は非常に限られています。
しかし、例えば、後ほど述べる自然研究路6号路のような小川沿いを歩いていくと浸食された地層や岩肌を間近に確認することができます。
また、高尾山の地層は、「互層」と呼ばれます。
その名の通り、砂岩と粘板岩が定間隔で「交互に堆積した」構造をなしているのです。
そして、高尾の地層のもっとも特徴的なものがあります。
高尾の地層は、なんと傾斜角70度から80度ほどでほぼ垂直で立っているというのです。
さきほども述べたように、海底に自然に堆積された地層が隆起しただけなら、平らに沈殿しているはずですから、当然地層もサンドイッチのように規則正しく水平に見えているはずです。
それが、立ち上がり垂直の地層となっているのです。
これがまさに強大なエネルギーの発散、大地殻変動の証拠にほかならないのです。
自然の宝庫高尾山を作った1億年前の壮大なドラマをここに見てとれるというわけですね。
小仏層の層の順番
小仏層は、下記の表の通り、異なる地質の3つの層から成り立っています。
笹野層 | 主に硬砂岩、礫岩 厚さ1,500m。 礫岩は数m以下、礫には砂岩、チャート、石灰岩 硬砂岩には黒色頁岩の破片を含むことが多い |
川乗層 | おもに砂岩,粘板岩 厚さ1,700m。 砂岩中に偽層のあるものもある 粘板岩はときに千枚岩に変わる.まれにチャート、緑色擬灰岩の薄層も |
小伏層 | 粘板岩を主体とする地層で千枚岩の部分も多い 厚さ2,000m。 チャート、緑色擬灰岩をはさんでいる |
それでは、地学、地質学からみた高尾山とその周辺を散策してみましょう。
小淵(こぶち)
JR高尾駅で下車して高尾山に向かい甲州街道を1kmほど進んでいくと中央線の高架と両界橋が交差する場所に出てきます。
車の往来も激しく、早く高尾の自然に触れたいと思っている方は、足早に急ぎたいところですが、左手奥をご覧ください。
南浅川の流れを確認できるはすですが、よく見るとここはなんとも美しい風景だということに気がつきます。
ここは「小淵」と呼ばれる高尾山麓では、特に景観のよいところで、昔より高尾の名所のひとつとなっています。
昔は、この近辺の子供達が河童天国よろしく、大きな岩から飛び込んで水と大いに遊んだということです。
大きな岩の中央を南浅川が流れていく様子は、緑の木々とのコントラストも美しく、見事な景観です。
この南浅川は、付近に小さな断層がいくつも見られることから、長い年月のうち「断層」にそって自然に作りだされた川と思われます。
また岩に確認できる多くの割れ目は、地質学的には「節理」と呼ばれています。
この節理の形は様々あり、五角形とか六角形の柱のような「柱状節理」と呼ばれるもの、板のようなっている「板状節理」、球状の「球状節理」などがあります。見事の岩の筋が規則的に入り風化の具合によっては、日本各地の名勝で見ることのできる絶景をかもし出すのです。
高尾山自然研究路6号路に沿って
高尾山口からは、是非、自然研究路6号路を歩いてみましょう。
6号路は、高尾山の地質を見るためには最高の観察路と言えます。
とりあえず、ケーブル駅まで進みましょう。ケーブル山麓駅の左には小さな川が流れています。
この小川に沿って6号路が始まります。
6号路の入口は、立て看板がありますので、誤って山に左の山に登る稲荷山コースを取らない限り、まず迷うことはないでしょう。
この6号路に沿って高尾山頂を目指していくと、ほどなく左に黒色の粘板岩や砂岩が見えてきます。
そして、地学に興味のある皆さんが、あっと驚く、自然の造形が待っています。
圧巻ともいうべき岩屋大師の少し手前に見られる大きな断層です。
この岩屋大師は、大岩に穴があいた神秘的な場所ですが、その左側は砂岩、右は細かなケイ質岩でできています。
そして、何よりも今歩いているこの研究路は、谷あいの路となっているのですが、この谷こそが、断層によってできた谷なのです。
道の途中には断層について立て看板があります。
丁寧な説明がしてありますので、まず立ち止まって読んでみることにしましょう。
この辺の地層は小仏層のひとつで、専門的には、先ほど説明した「川乗層」と呼ばれています。
6号路の脇を静かに流れる小川にも、至る所にこの自然の働きである断層が見出せます。
そしてその断層の働きによって高尾山の滝を作り出したのです。毎年、数多くの方々が熱心に修行に励まれている滝の数々も、そんな自然の働きで形成されてきたのです。
これもある意味高尾山の自然の大きさなのかもしれません。
高尾山自然研究路1号路に沿って
さて、高尾山ではリフトの山頂駅から薬王院までは、尾根伝いに歩くことになりますが、この際には左右の崖によく注意してください。
ここかしこに植物の根が岩石に食い込んでいる様子を見て取ることができるはずです。
このようにして、堅いはずの岩石が、植物の根によって徐々に破壊され、そして長い年月のうちに風化されていくのです。 植物の岩との戦いがここにもあるのですね。
また、途中の男坂と女坂が分かれるところでは、ちょうどその右手に地層が露出している場所があります。
地層を確認すると、砂や泥の存在を確認できます。砂岸と泥岩が互層を形成し、これが小仏層群と呼ばれる地層です。
次に、高尾山頂からは、一丁平を経由し、城山を抜け小仏から裏高尾へと続く道を行きましょう。
ハイキングコースのあちこちで、よく気をつけていると、薄く割れた岩石が多く見つかります。この辺は粘板岩で構成されています。先ほど述べたような高尾山の地殻変動の結果である垂直に板を重ねた地層をここでも観察できます。
これが小仏層群の一番下位にあたる小伏層です。
地学散策(八王子城山)
続いて八王子城山の地質を見てみましょう。
高尾山とJR中央本線、中央自動車道を挟んでそのほぼ真北にあるのが城山です。
その標高は460.5メートルというから山というより、ちょっとした大きな丘といった感じでしょうか。
この城山、分け入ってみるとなかなかどうしてその険しさに驚かされます。
北浅川沿いの松竹から滝沢川をさかのぼり、支流の清竜寺沢までたどり着くとその奥にはこの辺に住んでる人でさえなかなか訪れないという清竜寺の滝があり、みごとな景観を提供してくれます。
この滝以外のもこの辺には小さな滝がいくつかあるのですが、この深くえぐり込まれた地層に前述の「互層」を見つけることができるのです。数10センチメートルの厚さの砂岩の間に薄い粘板岩の層をはさんだ高尾を中心としたこの近辺に特徴的な地層といえます。
城山全体がこのような地層の重なりを持って作られているのです。
またハイキングコースでも有名な城山の山道にはこの「互層」をあちらこちらに見ることができます。
しかし、木々の美しさに気をとられ、足元をおろそかにしないでください。この一帯を歩くときには足元にどうぞ注意してください。
このハイキングコースの乗った板岩は「千枚岩」という変成の進んだ岩石になっているところも多いのです。
細かい割れ目が生じ雨水がしみこみぼろぼろとなって崩れやすくなっていたり、このハイキングコースをえぐりとり、路が寸断するところも多いようです。
さて、高尾山も城山もこの「互層」から成り立っているのですが、城山は高尾山に比べると砂岩の占める割合が多いようです。反対に高尾山は粘板岩の占める割合が多いそうです。これらの地層は先ほど述べたように地質学的には「小仏層群」と呼ばれています。
城山に多く見られる砂岩はかなり硬い岩石ですが、多くの割れ目が発達した形で小規模な断層も見つけることができます。
横沢の滝の北側の壁には高さ数メートルをこえる絶壁が見えますが、これは断層ですべった岩盤面そのものなのです。