高尾山の文学と伝説・民話

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高尾山四滝伝説

 高尾山には4つの滝があります。そしてそのひとつひとつに霊山としての説話、伝説が言い伝えられています。
 それでは、高尾四滝にまつわる不思議な世界に皆さんをご案内 しましょう。

琵琶滝

 昔、高尾山の山奥に、鳴鹿の谷と呼ばれる谷がありました。そこにはその名の通り、鹿の群が棲んでいたのですが、聖地として誰も近づかない場所でもありました。そして、その奥には洞窟があってそこから清流が湧いていたと言うことです。そしてこの流れが前沢の谷から案内川となって付近の山々を潤していたのでした。  

 ある時、高尾の俊源大徳が、高尾山を歩いておりますと、どこからか琵琶の音色が聞こえてくるではありませんか。
こんな山の中で琵琶とは不思議なことだとどこから聞こえてくるのかと探してみたのですが、確かに聞こえてくるのにその場所が、まったくわかりません。
北から聞こえてくるようで、北の方に耳をやると、いやいや、南から聞こえてくるようでもあり、そうかといって西からあるいは東からのようでもあるし、さっぱりわかりません。

 するとそのとき一頭のそれは立派な姿をした鹿が俊源の前に現れ、さあついてきなさいとでも言わんばかりに道案内をし始めたではありませんか。  しばらく、とりあえずその後をついていくと、前沢の谷を上り、なんと聖地である鳴鹿の洞窟近くにまでやってきました。

すると、そこに白髪の老人が大きな岩の上に腰を下ろし、琵琶を弾いているではありませんか。
本当に清らかな調べで、心が洗われるようでした。俊源は、その美しい調べに思わず深く一礼すると「どうぞ悟りの道をお教え下さい」と老人に懇願しました。

 すると大岩の回りに鹿が集まり、そしてその大岩に吸い込まれるかのように鹿の群も老人も消えていきました。そしてその跡には琵琶の形をした滝壺が現れたではありませんか。滝つぼに吸い込まれていく水音、滝の音色は、先ほどの老人が奏でていた琵琶の調べのように清らかでした。これはありがたい、これこそ悟りの道を開く修行の霊場だと俊源は大喜びしたのでした。  

 今もこの滝は高尾山でも尊い修行霊場となっており、数多くの信者は、心に響く琵琶の音色のする滝で修行を積んでいるのです。 琵琶滝の説話にはこの他に、滝の落ちる形、あるいは滝壺の形が琵琶の形をしていたので琵琶滝と呼ばれるようになったとか、法師が修練の場を得るために小さな谷川の流れに琵琶を立てたところびわが巌となって滝を作ったとかいう話があります。

いずれにしても琵琶というのは古来より霊意があるとされており、琵琶にまつわる話は全国各地にあります。高尾の神聖な山もこれらの話が作られる要素を持っているのでしょう。

蛇滝

 昔、俊源大徳が、滝の行のできる場所はないかと高尾山の山々を歩き回っていた頃の話です。

北水沢の小さな谷の流れのところに来てみると、地元の猟師が数人で、白蛇を踏みつけて今にも刀で斬り殺そうとしているではありませんか。俊源は、その姿を哀れに思い、「殺生はいけません。なぜ、そんなことをするのですか」と猟師を止めにはいりました。

すると猟師は「この白蛇は、俺がこの山で大きな鹿を見つけたので矢を放とうとしたところ俺の足に噛みついたのさ。おかげで逃してしまった。まったくしゃくに障る。」と説明しました。

 するともう一人の猟師も「俺もこの間立派な猪を見つけ矢を準備しようとしたところ、いきなり俺の足にからまりついて、おかげで逃してしまった。」「俺は雉を射ようとしたら、この白蛇が突然、木の枝から飛びかかってきて邪魔をしたのさ。」「毎回、俺達の猟の邪魔をしていたが、やっと捕まえたのでこれから俺達の邪魔が出来ぬように殺してしまうのさ。」と次々に猟師が答えました。   

 この話を聞いた俊源は、「これはお前様方に殺生をさせまいとしていたのだよ。私は修行の身であり、持ち合わせがこれだけしかないが、全部あげるので助けてくれ。」と頼みました。猟師達は、俊源が差し出したなけなしの金を受け取ると山を下りていったのでした。さて、俊源が助けた白蛇を放してやると、白蛇はたいそう喜び、「お礼に私に出来ることをおっしゃってください。」と何と話してくるではないですか。  

 びっくりしたものの俊源は「今、修行の霊場となる滝を探しているのです。どこかいい場所は知りませんか。」と尋ねました。すると白蛇は、「ではどうぞこちらに」と北水沢の谷を上っていきました。ついていくと逆沢の切り立った崖までやってきました。白蛇は俊源を見つめるとあっという間にその崖を上っていきました。岩場を上っていく白蛇はしだいに大きくなって崖の頂上にたどり着いた頃にはその姿が消え、代わりに流れおちる瀑布となっていました。この滝は蛇滝と呼ばれ、高尾の霊場のひとつとして今も   熱心な行者達の修練の場所となっています。   

 蛇滝の話はこの他に助けられた蛇が、俊源を滝の場所まで案内する話や、蛇がたちまち竜に変身し雲を興し雨を呼んで川を流し滝を作ったという話が伝わっています。
川の流れが蛇に例えられるのは納得的ではありますが、どの話も聖地高尾山にふさわしい話です。

清滝

 高尾山のケーブルカーの駅前広場には「清滝」があり、水源は「琵琶滝」から引かれていますが、滝の上には修験者の守り神である不動明王の石仏があります。ここ清滝には、不思議な伝説があります。

 昔、川越に弥太という悪党がいました。
彼は、元々は腕のいい石工だったのですが、博打に喧嘩、無法の限りをつくし、「まむしの弥太」と異名をとっていたのでした。高尾やその近辺で質屋に強盗に入ったり、旅籠に火を放ったり、豪農の家に盗みに入ったりと悪事を繰り返していましたが、とうとう悪運がつきて川越の代官所に捕まってしまいました。本来は当然死罪となるところでしたが、母親の必死の嘆願がかない打ち首を免れて島流しとなりました。     

 母親の恩情に救われた弥太は、三宅島で3年を過ごし、恩赦により放免となっても戻ってきました。しかし、心労が重なってか、弥太が島で過ごしている間に母親は死んでいたのでした。なんと親不孝をしてしまったと、その罪の深さに改めて驚き、悲しみ、そして心底、改心した弥太は、生まれて初めて大声で泣いたと言います。

 村の長にこれからの身の振り方を尋ねると「高尾のお山に登り、身を浄め、母親の菩提を弔うがよい。お前はもともと石工としての腕は確かだったのだから、これからはその腕を使い、一生懸命に働けば母親もきっと喜ぶことだろう。」と教えてくれました。  

 さっそく弥太は高尾のお山に登ろうと装束を整え、坂道にかかり、一の鳥居をくぐろうとしたところ、なんとしたことか、体が全く動けなくなりました。行く手を阻まれたように、ぴくりとも身動きがとれません。後ろに退くのはできるのに、先に進もうとすると金縛りにあったように一歩も前に足を出せないのです。お山に登る他の人は、その様子を傍目で見ながらも何の支障もなく進めるのに弥太だけがどうしても登れません。鳥居をくぐらなければよいかもと、山道に入ろうとしましたがそれでもやはり山に入ろうとしたとたんに動けなくなるのです。

 弥太は道にはいつくばって泣き出してしまいました。出来事を聞きつけて不動寺の住職がかけつけました。「これは、弥太の心にまだ十分の改心がなく浄められていないからだ。身を清らかにすればお山に登れるのだが。しかし、身を清めるにも、琵琶滝も蛇滝もお山の中にしかないし、ここには滝もない。困ったことだ。」と心を痛めました。   

 弥太は、これを聞くと合掌し「身を清めることが出来るのならば私は今この身を滝に打たれ砕かれても構いません。」と一心に祈るのでした。
すると峰のほうからどどどどっと水音がしてあれよあれよという間に川が滝となって落ち始めたではありませんか。
弥太は、これこそ恵みの滝と歓喜し、急いで滝に打たれたのです。すると鳥居も難なくくぐれ山にも登ることができました。   

 この後、この滝は「清滝」と呼ばれ、以来、心に邪心があった者が、お山に登るときにこの滝で、身も心も清らかにしていったそうです。清滝の傍らに立つ岩不動は、石工弥太が収めたものと言われています。 

布流滝

 高尾山には他にも滝がありました。1号路を登り最初に大きく曲がる場所にあった「布流滝(ふるたき)」です。一の鳥居から登っていくと五町ほどのところにありました。水行施設もあったようでケーブルカーが開通した昭和初期の絵はがきにも描かれていますが、その後崩壊して現在はコンクリートで固められています。

 この滝には不思議な言い伝えがあります。お山の参拝の人がこの滝で打たれているとすぐわきに同じように滝に打たれている人が見えるというのです。
影のように見えるので、同行の影と人々は呼んでいました。

 在家の人だけにその影が現れるのではありません。   
十分に修行を積んだ高僧でもその影を見ることはしばしばです。全国の霊山でも滝行の時に同行の影が現れるというのは聞きます。これは行者や参拝人が滝に打たれるときにそれを守って下さる仏の影であると信じられています。

 滝行は苦行ですので、きっとそれを守ってくれているのでしょう.....このような説明を僧侶たちはきっとしてくれるでしょう。     

 さてこの同行の影を弘法さまであると説く人もいます。巡礼の時、「同行二人」と記して旅をする姿は、四国の巡礼でもよく見かけるはずです。滝行も同じであるというのです。
全国の滝でも、この同行の影は見られますが、特に布流の滝に数多く見られると言うのは、この滝が在家の方々の垢離の霊場なので特に大切に見守っていただいているからだと言われています。


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