・山の天気
・自然を守る
・紫外線・花粉症対策
・山歩きの基本
山の天気
最近の山岳遭難の特徴として、警察白書は「中高年登山者の比率が高い」ことに加え「体力・技術の不足」のほか、「気象判断の誤りや装備の不備など、登山の基本的な知識や行動を欠いた事故が多い」と厳しい指摘をしています。
最近の中高年登山者の傾向は、登山の基本を学ばないで、「百名山」ブームから、ただ山を目指すという方が多いようです。
このため、本人の登山知識不足トラブルの要因になっているようです。加えて、ハイキングなのか山歩きなのかの区別があいまいです。
いつのまにか、「ハイキング」と「登山」の境目がはっきりせず、小さなザックにお弁当に水筒とお菓子を持って、颯爽と山に登る方を見かけます。
この講座では、基本的に山歩き、軽登山、低山ハイキングに焦点をあてて解説していますが、まず、山とは何かを知っていただくために、山の基本的な知識をご紹介しましょう。
普通の中高年の方でも基礎を学び、山を知り、己を知る、ことで、ハイキングからはじめ、慣れてくれば百名山も可能です。
「山の天気は変わりやすい」
これは大前提。山の天気はコロコロと変化します。ついさっきまで青空がひろがっていたのに、霧がどこからともなく押し寄せてきてあっという間に雨が降り出すなんてことは日常茶飯事。
高い山では、晴れていても急に雲が出てきて、雨が降り出すことがよくあります。
特にいくつもの山がつらなったところでは、気温が低いことと、その複雑な地形により上昇気流や下降気流がよく発生するため、空気中の水蒸気の量により、雲ができたりなくなったりをひんぱんに繰り返します。
このため、「山の天気は変わりやすい」とよく言われます。夏の好天の日でも、午後は雲や霧が発生し易く、夕立となることも珍しくありません。
突然、風雨やみぞれにたたかれることもめずらしくありません。
こうしたことは、最も暖かくなる昼過ぎによく起きるので、朝晴れていても注意が必要なのです。
山の天気は平地の天気と同じ流れになりますが、標高、地形の複雑さ、気温、風などで平地とは全く違う様相を見せます。
このように、天候が変わりやすい山では、どんなに快晴でも油断はできません。
ウェアが不十分だと体温が奪われ、あっという間に凍死してしまうこともあります。ハイキングの途中で天気があやしくなったら、すぐに行動に移しましょう。
雨が降り出したら、まず服装をチェック。小雨でも身体が濡れると疲れやすくなるので、雨具や防水コートなどを着て、雨が直接身体に触れないようにします。
また、身体が濡れると体温が低下するので、セーターなどを着て温かくします。雨が強くなったり風が吹いてきたら、無理をせず、濡れない場所に避難し、風雨が弱くなるのを待ちます。
雷が起きそうな時は、低い場所で、高い木や大きな岩などから離れた場所に避難します。
高度と温度の関係
天気は平地と同じであっても気温は全然違った、数値になります。山に登る人はごく自然に感じていると思いますが、高い山に登る程、言い換えれば標高(高度)が高くなるほど気温は低くなリます。
山は100mの高度を増すごとに気温は0.6度Cずつさがり、これに風がふくと風速1mごとに体感温度が1度下がります。
このことから、仮に標高0mの自宅から3000mの山に登る場合、18度の気温差があることが分かり、着ていくものや持って行く衣服を判断することができます。
平地での気温が30度あるような夏の日でも,3000メートル級の山での気温は12度くらいになっているわけですから,その気温の低下は非常に大きいのです。
また、山に登ると,標高が高くなるにつれて普通は風が強くなり,高山では平地と比べてはるかに風が強くなっています。
特に冬などの気温の低い時に風が吹いていると実際の気温より寒く感じます。地形によっても風は大きく変わり,鞍部のように風が吹き集まるような場所では風が強くなります。
風がなければ身体の周りに体温で暖められた空気の層ができ、空気の断熱効果で寒さが緩和されるのですが、風が吹くとこの空気の層が吹き飛ばされ体温が奪われて行くためです。
山の稜線上など高い場所では、北から北西、南よりに風が変わっていく場合、低気圧の接近と天候悪化の兆しとなります。
また平地では雨でも山に登ればみぞれや雪へと変化していくことがある。普通,気温が2度以下の場所では,雨ではなく雪が降ります。
山岳では放射冷却が起こりやすく晴れた朝は冷え込みます。昼夜の気温差は平野部より大きいのです。それを考えれば最低気温も大体予想できるかと思います。
このように衣類の選択に重要なのは体感温度であるのは言うまでもないのですが、「昼の平均的な気温」で通常の行動着を「最低気温、予想される風の強さ」で防寒着を考えたいものです。
雷の恐怖
雷は7、8月に多いのですが、山では秋にかけても発生します。
時間的には昼過ぎから夕方に発生するので「早立ち、早着き」の原則を守ることが大事です。
特に夏山では、上層寒気の動きが遅いので、[雷三日」といわれるように、2,3日、毎日同じころに起こる習性があります。
したがって前日雷があったら、今日午後にもあると見て、早く出発して早く目的地に着くようにしたほうが良いでしょう。
雷が接近しているような時は、行動を早めに中止し、安全な所へ退避します。雷は放電現象ですので、何箇所にも落雷します。
ところで、ひとくちに雷といっても、ハイキングのような低山での雷と高山の雷は全く違うものです。そもそも高山の場合、雷雲の中にいるのですから、上からだけではなく、横からも下からも雷は襲いかかってくると考えねばなりません。
よく雷にあったら金属を身から外せといわれますが、雷雲の中ではこれは無意味です。
水分を多量に含んだ人間の体そのものが落ちやすいのですから。積乱雲が発達し、水分を充分に含んだ黒い雲になります。
雲の中に高電圧の電気が溜まり、雲と雲の間や、雲と大地間で放電する現象で、前者を雲間放電、後者を落雷といっています。
この中では、湿気を含んだ、非常に強い上昇気流が発生しており、上空の温度がー10度以下に下がっている場合に雷が発生しやすくなります。
ラジオを点け、ノイズの間隔や強さなどの変化を意識します。
雷に遭遇した場合、最も危険なのは樹木のない裸の尾根です。そんな場所で雷が接近してきたら、決して一箇所にかたまらず、尾根から離れてなるべく窪地などに身をひそめることが大切です。
湿地帯、岩角はさけ、一刻も早く山頂や稜線からおりて、樹林帯やハイマツ帯に入り、金属製のものを身体から遠ざけます。
逆に高い樹木のある場所では、木から4m以上離れて姿勢を低くするようにします。また、雷の落ちやすい場所は過去の山域データからわかるので、事前に調べておくとこもいいですね。
ちなみに稲妻が光ってから音が聞こえるまでの秒数を数えると距離がわかります(大体音速は秒速340m)。
万一感電すると、致命的な火傷によるものでなくても、ショックによって失神や、ときには心臓停止がおこります。
その場合は心臓マッサージと人工呼吸をして救助してください。
霧の恐怖
日中に麓から山に向かって吹く風を谷風と呼んでいます。また、夜に山から麓へ吹く風を山風と呼んでいます。これが逆転したり、乱れたら天候悪化の兆しです。
谷風による霧,また雨天の場合など,山で霧に出会うことは多い。霧が出ると方向が分からなくなり道に迷う危険が生じます。
地図とコンパスを利用して現在位置と向かうべき方向を把握する必要があるのですが,目標となる物が見えにくくなっているわけですから,霧が出始めた時からより慎重に行動し,登山道からそれないようにすることが重要です。
雨や霧など天候が悪化したとき、もったいないと思わず、引き返す勇気を持つことが大事です。
紫外線の恐怖
海や山は普段の生活より太陽の光がいっぱいです。日射による紫外線は標高が高くなると増加し,またさえぎるものが少ない場合や残雪による照り返しがある場合には,さらに強くなります。
空気は太陽からの紫外線を吸収してくれているのですが、山などでは高度が上がるにつれ、その空気が薄くなっていきます。
高度が上がるほど気圧が下がるのと同じです。そのため、山では麓よりも紫外線の量が増えてしまうのです。
眼と皮膚を強い紫外線から防ぐために,帽子と,高山に登る場合と低山でも紫外線の強い春から夏にかけての時期,雪山ではサングラスと日焼け止めクリームが必要となります。
なお、サングラスですが、紫外線をから目を守ることを考えると、レンズの枠が細くて小さなタイプは、活発に動くアウトドアでの使用にはちょっと不向き。
サングラスと顔の隙間から紫外線が入り込みやすくなってしまいます。
きちんと紫外線をカットするためには、フレームが大きく、目の横側までカバーするタイプがおすすめです。
雲を読む
山では、気象の変化が著しく変わり、その判断を誤ると遭難になり、生死を分けることにもなりかねません。この最も顕著なものが、雲の動きです。
これに伴い、風や雨、雪(みぞれなども)、そして雷などがあります。また、山では快晴でも午後になると雲が発生し、視界を遮ったり、雨を降らせたりします。
遠くの山が白っぽく見えたり、空気に透明感がない場合は、空気中の水蒸気が多いことを示し、雲が発生しやすい状況であると言えます。
透明感のある空に渦巻いた巻雲があるときは好天ですが、放射状の巻雲が西(夏を除く)や南から広がるのは、注意が必要です。
天気予報を利用しよう
日本は四方を海に囲まれ、四季があり、温暖で、山の多い特徴を持った国と言えます。このため狭い国土ながら、複雑な気象条件が生まれ、予報も難しいようです。
しかしながら、目的の地域の天気予報は、必ず調べましょう。悪天候を避けるためには、山に行く前に天気予報をよく聞くことです。
とくにNHKの夜7時前の気象情報は、気象衛星「ひまわり」からの画像を放映していて、地上の天気だけでなく、山の天気を知る上でたいへん参考になります。
また、最近はインターネットでの調査も価値があります。山の天気は変わりやすく悪天候の場合は大変危険です。天気予報によっては装備が増える場合もありますし、雨の日や、悪天が予想される場合は、登山を中止する事も大切です。
ただ、山のお天気は平野部のお天気とは季節感も違えば変化の激しさも違っています。テレビ、新聞の「天気予報」は平野部のもので、「山間部」といっても人家のある範囲のことです。
たしかに駅からハイキングに出かける時には通常の天気予報で済むかも知れないし、雨が降っても周囲の軒先で雨宿りや車の利用が可能の場合もあるでしょう。
しかし、山は山、ひとたび山に入ると、車も入らない、人家もないということを肝に銘ずるべきです。山で雨に何時間も打たれるのは、川に飛び込んで何時間も泳ぎ続けるのと変わりは無いのです。
また、現在の天気のみならず24時間後、48時間後の天気についても確認しておくことが不可欠です。
経験の少ない人や、はじめての山域に入るときには、翌日が1日中「雨」という予報のときには、計画の延期が必要でしょう。
山の天気は平地と比べて厳しく,そして変わりやすいので,時には危険を招きます。そこで,「天気が悪い時には山へ行かない」というのを原則としてください。