高尾山の雑学・豆知識

高尾山天狗裁判

 圏央道の予定地になっている八王子市の住民ら約1300人と七つの自然保護団体が、国などを相手取って建設工事差し止めを求めた民事訴訟で、圏央道の都内区間建設をめぐる4件の訴訟の皮切りとなった。1984年以降、反対運動が広がり、工事開始後の00年に提訴。高尾山の守り神・天狗にちなみ「高尾山天狗裁判」と呼ばれました。
 しかしながら2012年7月19日、東京高裁で高尾山天狗裁判のひとつの控訴審判決がありました。12年も続いた裁判の最後の日でした。判決は控訴棄却でした。

 さて、「高尾山天狗裁判」とは、東京都下では、初めて行なわれた「自然の権利」訴訟でした。当時、建設中であった首都圏中央連絡道路(圏央道)によって高尾山の自然が破壊されるとして、地元の自然保護団体を中心とする1060人が、国や日本道路公団を相手に、道路の一部建設差し止めを求める訴えを東京地裁八王子支部に起こしたのです。                        
 ところが、この訴えの原告には高尾山や、そこに生息するオオタカ、ブナなども名前を連ねており、いわゆる「自然の権利裁判」といえます。そもそも自然物に裁判を起こす当事者能力があるとする考え方は、1969年に米国で起こされた訴訟から生まれました。 米セコイヤ国立公園内のミネラルキング渓谷に計画されたスキー場建設について、環境NGO(非政府組織)が差し止めを請求したのです。米連邦最高裁は72年に「NGOには訴訟を起こす適格性がない」との判決を下したが、その際、判事の1人が少数意見として「むしろNGOよりもミネラルキング渓谷自身が裁判を起こすべきだった」との趣旨の発言をしたのでした。

 この発言は南カリフォルニア大のクリストファー・ストーン教授の論文を受けたものですが。ストーン教授は、従来より社会の進化に従い「法人」のような無生物まで法的権利があると認められるようになった現在、森や海などの法的権利もその延長に議論できる――と主張していました。 その後、米国内ではストーン論文を理論的根拠に、自然物を原告にした訴訟が起こされるようになったのです。73年に「絶滅の危機にある種の法」が制定され、こうした種を脅かす行為に対して市民が権利を代弁して裁判を起こせる、と明記された。同法に基づく訴訟で、フクロウやグリズリー(ハイイログマ)といった野生動物が原告となって勝訴した例もあるのです。

 日本では奄美の訴訟後、自然物を原告にした訴訟は天狗裁判や、オオヒシクイを原告にした訴訟(水戸地裁)など数件があるようです。 ところで裁判所はその後高尾山、オオタカ、ムササビ、ブナ、八王子城跡の5自然物については、裁判所の合議(3名の判事による意見の統一)がまとまらないため、原告適格がないとして訴えを却下。その際に提示された却下の理由は概ね以下の通りでした。

 「当事者欄記載の高尾山、ムササビ、ブナ、八王子城跡及びオオタカがいずれも自然物であることは、訴状中のその旨の記載から明らかである。そして、訴状中には、人類が生物多様性を保全すべき義務ないし責任の根拠は、人類が自然に付与した文化的な価値には限定されず、自然物の存在自体の尊厳にもある、訴訟はそこから派生する自然物の生存に向けられた権利の究極の救済手段であり、特定の人が自然物のために訴訟を提起しようとしても当事者として認められないことがあるから自然物自体の訴訟主体性を認めるべきである、等の記述が認められる。
 しかしながら、民事訴訟の当事者となる一般的能力である当事者能力は、民事訴訟法、民法その他の法令に従って定められることころ、上記の自然物の類に当事者能力を認めたと解すべき法令の規定はない。
 そうであれば、本件各訴えは、当事者能力を欠く者によってなされた不適法な訴えというほかなく、これを補正する余地もないことは明らかである。よって、口頭弁論を経ないで本件の各訴えを却下することとする。」

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